7月初めの日曜日 <大潮>
マリーナを出て2時間。
今まで順調に飛ばしていた艇の速力が落ちる。
千葉県房総半島先端。布良瀬あたり。
滑らかだった水面が突如その海域だけ波立っている。潮流が海底の複雑な地形に当たって波立つのだろう。
今日はやけに鳥の活性が良い。艇の周りを沢山の海鳥が飛び回っている。
少し異様な光景にドキドキする。
「鳥が随分多いですね」Capt.に尋ねる。
「うーん。この辺はいつもそうだよ」
「きっと、カツオやサバがいるんじゃないかな」
Capt.は先輩Crewにも声をかける。
「水温、イマイチだねェ」
「そうっすね。水色もひどいですね。緑色して、濁ってますよォ」
サングラスを外して水色を確認したCapt.は顔をしかめながらうなづく。
ポイントに着く。 <千葉県野島崎沖>
「カツオ(カツオ用ルアー)も流しますか?」
本日のメニューは、
新作片山ルアーの、“白蝶ジェット・バレット”の調子を見る事。
新人Crewをトローリングに慣れさせる事。
そして、Capt.作成の“Project B”作戦である。
先輩Crewの問いに、
「例のアレ流してみようぜ」と、Capt.が答える。
柔らかい調子のロッドに“Project B”とカツオ用ルアーをセットする先輩Crewを見ると、
ニヤリ、として小刻みにうなづいている。
「適当に流して良いよ。面白そうじゃん」と目だけで答える。
ショートにカツオ用ルアー2本とロングにカジキ用ルアー2本で、ポイントを流す。
トローリングを開始して既に数時間が過ぎようとしている。
遠くの陸地を見ると白いホテルのような建物が見える。
相変わらず、鳥が飛び回っているのと、水色が悪いのは変わらない。
何が釣れるのだろ?
カジキが無理でも、カツオやキハダが釣れるといいな。
美味しいしな。
午前9時過ぎ
突然、リールがジーッと鳴る。
アウトリガー・ロングの白蝶ジェット・バレットにストライク!
艇の後ろで大きな魚が首を振っている。
小さくジャンプ!!
「カジキだ!」Crewの誰かが叫ぶ。
呆然として見惚れる。
が、そのままリールの音は鳴リ止んでしまう。
初めて見るカジキに唖然として何も出来なかった。
Capt.がルアーを全てカジキ用に替えるように指示を出す。
ほぼ同時に先輩Crewが慌てた手つきでルアーを替え始める。
あれから1時間半が過ぎようとしている。 潮位は下げ八分
MGGIE JOEでは、各自好きな時間に勝手に食事をとる。
いつ、カジキのストライクがあるか判らないので、全員一緒にと言うわけにはいかない。
トローリングに出ると、Capt.はコンビニのおにぎりだ。
かじっていて、何かあったら、いつでも放り出せるからだと言う。
さっきのカジキで、興奮してあまり食欲は感じない。
次に魚がアタックしてきた時、自分が、どう動くべきかイメージ・トレーニングする。
後方の海のワッチを続ける。
興奮が少し収まって来た頃、一番手前のルアーの近くを
大きな白い物が横切る。
まさか、こんな近くに魚が来るとは思わないので、
何かの見間違いでは? と、思う事にしたすぐ後。
アウトリガーロングのルアーの後ろで、魚が泳いでいるのが見える。
黒い。
ヒレが見える。
あの距離からいって、かなりの大きさがある。
カジキだ!!
大きな声を出そうとする。
「あっ あっ あーー!」声が出ない。
「あー! ○×△□※#$!?」言葉にならない。
他のCrewも気づいて、声をだす。
全員が後ろを見た瞬間、アウトリガーのラバーバンドが「ブチッ!」っと音を立てて切れる。
体が自然に、魚がついていないロッドに飛びつく。
全力で、ルアーを回収していたので、最初のジャンプは見られなかった。
全てを回収して海を見ると、また、カジキがジャンプ!
「うおー!すげー」
先輩Crewは、既にファイト体制に入っている。

「見えたよ」
Capt.はフライ・ブリッジで操船していて、高い位置にいたので先にカジキが見えたらしい。
「ダブル・ライン入ります!」
先輩Crewが叫ぶ。
やがて、我々にも海中のカジキが見えてくる。
「リーダー!」
スイベルがロッド・ティップの所まできている。
艇をデット・スローにしてCapt.がフライ・ブリッジからおりる。
やさしく、しかし、確実にカジキを引きつける。
「ギャフ!」Capt.が叫ぶ。
フライ・ギャフが打ち込まれる。
「ビリー!」
「?」
今まで、カツオをキャッチするか、あとはリリースしていたので、
聞いた事の無い道具だ。
「ビリー! ビリー取って!!」「バット!」
「?」
ようやくカジキを殴るバットの事だとわかり、Capt.に手渡す。
Capt.が「ベチ、 ベチ、」と叩く。
先輩Crewが「ベチッ!ベチッ!ベチッ!」と殴りつける。
カジキが動かなくなってから、艇に引き上げる。
「デカイですね」
「本物見ちゃったよォ」
「へーっ、角がすごい」
「刺されたら、大変ですね」
新人Crewの間から、全くのシロウト的会話が出る。
「一応、気絶しているだけで、暴れることも考えられるから、注意して」
先輩Crewが脅かすように言うのが聞こえたかのように、カジキが僅かにヒレをヒクヒク動かす。
私は、バットを拾い上げて、「べちべち べちべち」叩く。
「もう、いいよ」
カジキは絶命していた。
マリンVHFなどで仲間の艇も駆けつける。
カジキを見付けるが、ルアーを追って来ないようだ。
この日、まだ2匹目も狙うが、ストライクは無く、我々は引き揚げることにする。
マリーナの手前で、先輩Crewが、マーリン・フラッグを揚げる。
こんなに立派な魚なのに、なんでこんなに小っちゃな旗なんだろう? もっと立派な旗にすれば良いのに。
とにかく、誇らしげな気分で入港する。
「マギー・ジョー上架しますか?」マリーナ・スタッフからアナウンスが入る。
ジェスチャで断り、給油バ−スへ向かう。
マリーナの仲間が、マーリン・フラッグを見つけて駆けつける。
なんだか英雄にでもなった気分だ。
Capt.は、仲間のキャプテン達から祝福の言葉を受けている。
先輩Crewが、ハーバー・スタッフと検量準備をしている。
我々新人Crewは、胸を張って、一人前の海の男の様な振る舞いで、艇の後片付けをする。
どのCrewの顔も笑みを含んだ、今にもバカ騒ぎをしそうな感じである。
片付けを終えて、カジキの所に行く。
大学生や、高校生のヨット部員らしき人たちが、感嘆の声を上げている。
カジキと一緒にCrew全員で記念撮影。
吊るされたカジキを見ていて、気づいた。
カジキの目は大きく見開いて、けして閉じることない、美しい青い目をしていた。
カジキの頭をべちべち叩いている自分を思い出した。
こんなに大きくて綺麗な生き物を殺してしまったんだ。
さっきまでの誇らしさが、少し後ろめたさの様な感じがした。
「カジキマグロって、おいしいんですか?」
ギャラリーの女の子から質問された。
実際に口にした事がなかったので、口ごもっていると、
「うん、おいしいよ。火を通すと少しパサパサするけど、鳥のササミみたいな感じかな」とCapt.が言う。
「こんなに大きいんじゃ、少し貰っても良いですか?」
Capt.は、
「ああ、いいよ、少し硬いけどね。ちゃんと食べてくれるんなら、いくらでもどうぞ。」と言ってあげた。
さあ、カジキの解体ショウの始まりだ。
近くにハーバー・スタッフが見当たらず、フォークリフトで吊るしたカジキを下に降ろせそうにない。
「いっそのこと、このまま吊るし切りにしちゃえば?」と言う。
カジキを、さばくなんてめったにある事ではないが、“カジキのツルシ切り”となると、日本中でもやった事がある人はいないだろう。
うまくブロックに分けて切りさばいた。
≪上↑の記念写真にマウスをポイントすると、カジキの吊るし切りが見られます≫
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