南の海のこわい話


  triとその仲間は年に一度、南方の離島へと逃亡する。

 離島の海は美しい。ゴーグルをつけて水面に浮いているといろんな魚を見られるし、 浮輪につかまってただプカプカ漂ったり、浜辺でのんびりするだけでいい。 観光やショッピングをしたいなんて思わない。

 あの日もそんなふうに南の休日を楽しんでいた。

 「けろっぴ」の浮輪につかまって、ホテルビーチの浅い所を漂っていると 脛に鋭い痛みを感じた。びっくりして水中を覗くが、陽光の乱反射でよく見えない。 たぶん尖った岩で擦ってしまったのだろうとひとり納得してそのまま漂い続けた。
 数分後、ふたたび同じあたりに痛みを感じた。今度はハッキリと生物に咬まれた感覚……!  瞬間、恐ろしい海洋生物のイメージが頭の中をかけめぐった。

   く、食われる!?

 パニックになり、なかばもがくように浜へ逃げ帰る。水から揚がって大騒ぎで仲間のもとへ。
  「何かに咬まれた〜!」
 脛には小さな丸い歯形がついていた。 落ち着いてから見てみると、どうってことない傷だけど……。
 「噛みつくような生き物がいるんだねぇ」
 「それにしても何なんだ?」

 そのしばらく後、水中カメラを持って海に入っていた妹が慌てて戻ってきた。 「カワハギがカメラに突進してきたよ!」


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 旅行後、撮影した写真を現像してみると、妹が遭遇したカワハギ(ムラサメモンガラ)の突進も見事に映っていた。

 妹から聞いた撮影時の様子、歯形の大きさなどから、 私の脛に咬みついたのはムラサメモンガラだろうとの結論になった。


 最近になってネット情報でいろいろわかったこともある。ムラサメモンガラは繁殖期は気が立っていて、なわばり付近にヒトが近づくと攻撃してくるとか。 ダイバーの間ではよく知られていることらしい。

 さて、遭遇したときのことをもう一度ふりかえってみよう。

 まず妹。
 水中を見ながら泳いでいた妹はムラサメモンガラのなわばり内に入り込んでしまった。 なわばりを守ろうとしたムラサメモンガラが攻撃してきたのを見て、慌てて退散した。

 次は私。
 浮輪につかまって漂っているうちにムラサメモンガラのなわばり内に入ってしまった。 ムラサメモンガラは多分、威嚇をしてみたのだが私は水中を見ていなかったため気付かなかった。 そのため実力行使(噛みつき!)に至り、見事退散させたというわけ。

 なわばりに入っちゃって悪かったよー。シュノーケルセットも買ったし、これからはちゃんと水中を見て泳ぐから噛みつかないで。
 それにしても…… 水中で咬まれたときは本当に怖かったなぁ。

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