ABC手法(活動基準原価計算)による物流コストの把握方法


物流費の問題が経営を圧迫するようになっています。無闇な値下げ要求・ダンピングでは荷主も請け負い側も対応できない時代になりました。
双方の具体的な業務改善無くしては、物流費の削減は不可能です。
このレポートでは、物流現場での物流コスト削減の方法を検討する為に、現状分析と原因対策の立案、シミュレーションの方法を説明します。
荷主企業様、請負物流企業様 それぞれの観点からアプローチしていますので、日常現場でのご活用を期待しています。

1 物流コストの定義

荷主にしてみれば「支払い経費」としての物流費が問題となり、物流企業では「現場経費=一般管理費」としての物流費が問題になります。共通する観点は、場所代、作業人件費、管理人件費、輸送費用、情報処理費用、他社払い負担経費になります。
それぞれについて、費用の構成要素をおさらいしておきましょう。

1) 場所代(賃料、保管料、倉庫料などのスペースにかかわる費用)

いずれも基本は土地建物の利用賃料になります。したがって、保管効率、利用効率によってコスト効果が大きく左右されますから、物流現場での効率測定が現状把握には必要です。

2) 作業・運営・管理人件費(物流現場に従事する人件費)

こちらは作業の生産性(時間あたり処理量)や段取り作業の時間節約が残業代や投入工数(人数×時間)に影響します。作業フローや工程図分析が必要になります。

3) 運送費(車両費、燃料費、車両固定・変動費、駐車場代、ドライバー人件費)

自社運行や傭車を問わず、運送効率としての指標には積載率、拘束時間、運行距離、配送物量(個数・重量・容積)が関連してきます。しかしながら、配送サービスの前提条件としてのルート決定や配達完了時間の制限は、営業部門の都合が最優先されていますので、効率追及の為には営業部門との調整作業が必要になります。

4) 情報処理費用(コンピュータ費用、伝票印刷代、EOS-VAN費用など)

物流にはコンピュータ経費が思いのほかかさむようになっています。処理時間、発行伝票枚数、データ量など、取扱物量に比例する経費と見る事が出来ます。

5) 他社払い物流費(納品先センターフィー、協力金)

営業上の取引条件として、他社が負担している物流経費の一部分を要求される物です。こちらも営業上の制約条件となっていますので、物流サイドからの改善要求は出しにくいのが現実でしょう。

このほかにも物流経費として計上されるものとして、物流設備費用(什器のリース、センター設備費用、冷蔵・冷凍庫経費)、梱包資材費なども挙げられます。

 

2 物流プロセスの分析

上述の物流費がどのような構成で発生しているかを見る方法が、物流プロセス分析です。製品・商品の動きから始まり、保管・荷役・加工・配送・返品処理などの物流フローの概略を押さえ、次の各プロセスでのコスト要因を整理していきます。次のようなモデルの中で分析の方法を説明します。

物流活動を営業部門の出荷指示、発注部門の入荷指示、財務部門の棚卸作業指示 という大分類と物流部門の在庫管理責任という業務範囲でプロセスを分解してみます。

これら物流プロセス全体を見ますと、それぞれの物流経費が

1. 占有割合で計算できる(坪数、スペース割合)
2 処理時間工数(人数×時間、それぞれの時間単価)
3. 処理回数、使用枚数(システム利用料、伝票発行枚数)

という形で計算されている事が分かります。従来は、これらのプロセスごとの物流費分析は行われずに一括して管理されていた事実があります。

 

3 物流プロセスごと、取扱商品ごと、配送先ごと、得意先ごとの物流コスト

総額としての物流コストの削減課題も重要でありますが、本質的な問題解決を要求されているのは、実は物流プロセスごと、得意先ごと、商品ごとの物流コストの把握と削減ではないでしょうか。
そのためには、前項の表に表現された物流費の発生要因を正確に捉え、削減の可能性を投入割合・投入工数・投入回数・投入単価 という観点から改善を掛けていくことになります。この観点に立った原価計算手法がActivity Based Costing と呼ばれる考え方です。従来は間接部門・費用と見られていた事務処理経費や情報処理経費までもなるべく作業要因として捉えて、物流費分析の新しい切り口を提示するものです。

具体的には、次のようなアプローチのもとに計算作業を進めていきます。

1) プロセスの分解(活動単位としてのプロセス)
物流作業としては上述のモデルの様に考えられますが、配送事業のみ、倉庫業務のみ、物流関連業務の特殊な事例 というパターンがありますので、業務フローの制作によりプロセスを整理します。

2) 投入資源の確認(コスト分類)
補足・管理しようとする経費として、賃借料、人件費、リース料、光熱費、保険料、等の会計資料から該当期間の総額を把握します。

3) 投入要因の整理(コスト発生要因)
たとえば人件費は作業者の人件費と勤務時間、保管料の賃料は占有スペース、マテハンのリース料は利用時間・回数、などの単価計算が必要になります。

4) 投入頻度の記録(投入対象と回数、時間の記録)
コスト分析の対象を商品別や得意先別としてモデル設定した場合には、その対象ごとの処理時間、回数、占有割合などの記録と追跡が必要になります。従って、サンプル調査という手法を採用することが必要になります。全工程の全ての記録を常に取りつづけると言うのは現実的でなく、またサンプルが適切であれば、全体想定もまた可能であるからです。

 

4 アクティビティ調査シートの作成

コスト調査のためにサンプル手法を採用するとして、次の手順でモデル構成を考えていくことにします。

1)サンプル期間の設定
調査データの収集を容易にするために、特に財務関係資料から集めやすい勘定科目と期間は月次データでしょう。従って、サンプル期間を月次に定めます。季節変動の大きさが物流現場では問題になりますが、物量の季節指数が捉える事ができていれば、平準月のデータでも構わないと思います。

2)調査モデルの設定
コスト分析の対象を定めます。商品別、得意先別、作業担当者別、など様々な切り口が可能ですが、得意先別採算の問題を重視するには得意先別、しかも重要度の高い得意先に限定してモデル設定します。

この場合の尺度としては、売上上位、名目利益貢献度上位などを目安にして選定することになるでしょう。

3)物流プロセスモデルの設計
調査モデルに対してどのような物流プロセスが存在しているかを、業務フローや作業手順書で念のために確認しておきます。物流現場では「出荷指示」〜「出荷完了」、「返品」、「棚卸」と言うのが標準的ではありますが、業務フロー上にどのような作業が発生しているかを確認することが重要です。

各プロセスに対しては、これらの業務とみなして作業内容を割り当てていきます。アクティビティーとは作業の単位ですから、各プロセスにアクティビティーを定めていきます。

4)アクティビティーごとの資源の確認
各アクティビティー・作業にはどのような資源(土地、設備、人工数、システム、光熱費、資材)を利用しているかの確認を取ってから、その消費資源の記録が取れるような調査シートを設計しなければなりません。単純に作業別の時間工数の記録だけでは決してありえないので、注意が必要です。
しかし、土地、設備、システム、光熱など、ほとんどが固定的に消費されるようであれば、月額の総額を物量で按分しておく簡易さも許されるでしょう。この際の物量とは、処理量であったり、伝票枚数、処理時間、占有面積との兼ね合いになります。

5)調査シートのモデル

○固定的費用の調査シート

○変動的費用(作業人件費)の調査シート

これは、通常の業務日報を工夫して、各作業員が『どの得意先のために、何の作業で、どのくらいに時間いくつ処理したか』を記録できるようにします。時間軸と作業内容、処理個数を記録できるようにしておきます。生産性測定で利用する用紙がありましたら、それを利用します。

手待ち、待機、整理・整頓、清掃などの汎用作業は、処理物量で割合計算します。
作業員の時間給を元に、作業原価を直接計算することができます。

 

6 そしてどのように活用するか

分析した結果をどのように活用するかが最も重要な作業になります。作業コストが判明しますと、直ちにその平均売上からの収益計算に取り掛かりたくなるのが人情ですが、それ以上に重要な作業が実は残されています。

1)標準作業での料金表作り
アクティビティー単位でのコストが判明したわけですから、料金表を作ることが可能です。新たな得意先開拓のためにも必要な資料です。プロセス単位、アクティビティー単位、対象とした得意先の類似商品単位で物流作業メニューを作ることができるはずです。

2)業務改善のポイント
人件費のコスト計算は、時間給と処理回数(個数)で表されているはずです。作業分析の原則として、まとめ作業はできないか、手順の省略はできないか、同時にできないか という観点から、処理回数の高速化・削減化の見直しが掛けられます。場合によっては、省力機器の導入もすでにコスト原価が出されていますから、効果を試算することも可能です。

単価の見直しは、作業の標準度合いに応じて可能になるかもしれません。その作業が熟練を必要としているかどうか、あの人から別の人に交代できないか、という金額ベースでの改善が可能になります。
固定的費用の場合にも、全体の割合から見てバランスが偏っているときには、設備や保管場所の変更が効果をもたらすことになります。在庫拠点変更や統合・分散化の判断にも利用できるはずです。

このようにABCを利用したコスト分析では、

◎得意先に代表される対象別コストが、かなり精確に算出できる
◎測定結果が直ちに業務改善の着眼点を整理している
◎合理化・省力化機器、システムの導入効果を試算できる材料となる

という3大効果をもたらすことが可能になっています。

 

 


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