THE WINDS OF GOD
− 零のかなたへ −
作・演出 : 今井 雅之
出演(チラシ掲載順・敬称略)
兄貴・岸田中尉 今井 雅之 金太・福元少尉 松本 リス 山田分隊長・神父 天田 暦 寺川中尉 田中 豊 松嶋少尉 清水 拓蔵 山本少尉 谷川 とむ 千穂・妊婦 横沢 美智香
日程(神奈川公演)・会場
2001年8月18日(土)〜8月19日(日)
於・ ヨコスカベイサイドポケット
2001年8月21日(火)
於・関内ホール
観劇日
8月18日(土) 19:00〜
D列19番
8月19日(日) 14:00〜
L列15番
*A〜C列は舞台が出ているためありませんでした。
あらすじ&感想
*引用するセリフはこの作品の小説を参考にしています。
時代は平成。季節はお盆。場所は東京駅のプラットホーム。ここから物語が始まります。兄貴こと田代 誠が1人ベンチに座っていると、そこへ年老いた神父さんがやってきます。「どこかであったような気がする」という神父さん。けれども兄貴には憶えがありません。すると神父さんはこんな事を言い出します。
「それじゃ、前世かの。あんた『輪廻』って知っとるかい?」と…
このあと輪廻という言葉でしばらく漫才のような会話が続きます。リンナイ(ガステーブルのメーカーですね)とか臨月とか(笑)。そして神父さんはこんな事を言います。
「人間が死んでその肉体は滅びても、魂は永遠にいきつづけるという事なんだよ。」
お盆帰りかと尋ねる兄貴に対し、神父さんは「この時期になると毎年全国に墓参りに行くのです…(中略)…皆んな子供のような笑顔で死んでいった。私が殺したようなものだ。」と語ります。そして「懺悔なさい」という神父さんに兄貴はある話をはじめます。
舞台は1年前の2001年8月1日、同じ東京駅のプラットホーム。田舎に帰れといわれたのが納得できなくて、兄貴に食い下がっているのは金太こと袋 金太です。『お笑い名人大賞』を目指し上京した2人ですが、8年間泣かず飛ばずで昨日で最後の舞台−ストリップ劇場の前座−すらクビになったばかりでした。
「昨日の漫才、なんやあれ!」という兄貴の一言で、客席はストリップ劇場に早替わり(笑)。客席も少し明るくなり本当に2人が漫才をはじめます。この漫才、売れていないという割に結構面白かったです(笑)。途中で台本無しのフリートークのコーナーもあります。その時の公演地の地元ネタが多いそうです。今井さんご自身が関西から出てきて一時期に横須賀に住んでいたということで、「詳しいんですよ〜」というような事をと仰ってました。今回は横須賀でしたので、映画館の自衛隊割引の話でした。横須賀には映画館で自衛隊割引があり、窓口で「自衛隊1枚」と言っている人の後ろの人も自分の職業を言ってしまったという話でした。客席はどんどん引き込まれていきます。でも、ツッコミ役の金太が段取りを忘れてしまい、漫才は台無しになってしまいました。
嫌がる金太を無理矢理新幹線に乗せた途端、後悔しはじめる兄貴。涙ながらに見送る兄貴の後ろにはなぜか金太の姿が!客席は大笑い。「兄貴の夕食の用意を忘れた」と言って戻ってきてしまったのです。「そんなもん。1人でできるわ」と言いつつも嬉しそうな兄貴。そして2人はもう一度やり直す事にします。「コンビ再結成を祝って、ドブ板にギャルをナンパしに行くぞ!」というセリフにまたもや大笑いの客席。(横須賀に『ドブ板通り』という有名な通りがあるのです。公演地にちなんだアドリブで嬉しかったです。)『ナナハン』と名づけた自転車(笑)で、街を疾走する2人。その時トラックとぶつかる音が…
暗転があけるとそこは1945年8月2日、旧日本海軍の基地。キビキビと掃除をしている隊員たちのもとに2人がつれられてきます。もちろん本人たち以外にとっては、岸田中尉・福元少尉として。離陸直後に墜落事故を起こした彼らは記憶喪失にかかっていると判断されたのです。ケガが軽くてよかったと喜ぶ松嶋少尉に対し、「特攻隊員にとって生きて帰ってくることほど恥ずかしい事があるのか!」と言って寺川中尉が怒鳴りつけます。
兄貴と金太は刑務所に連れてこられたと勘違いしています。かみ合わない会話をする兄貴と隊員たち。業を煮やした岸田中尉と同期の寺川中尉が「窓をあけて外を見てみろ!」と言います。そして窓を開け愕然とする2人。目の前には本物の零式戦闘機が…
2人は夜逃げを計画しますが、見張りの山本少尉に見つかってしまいます。学徒(学生)出身の山本少尉は2人の様子が以前と違う事に疑問を感じ、彼らの話を聞いてくれます。彼は帝国大学(今の東大ですね)で超心理学を独学で学んでいたのです。自分達が未来からやって来たという事を信じてもらうためにはどうしたらいいのか…ひょんな会話から2人は原爆の事、終戦の事を口にします。それらが本当に起これば彼らが未来からきた事が証明されるのです。
それでも次第に馴染んでいく2人。ある日、零戦の掃除をしていいると、ふとした事からエンジンがかかってしました。慌てて止めようとする2人。その時兄貴の目つきが変わります。なれた様子で操縦桿を握る兄貴。後ろから金太に揺さぶられて我にかえる兄貴。パニック状態になりながらも零戦を上昇させます。ドライアイスが本当に雲みたいでした。
また別の日、山本少尉の所に手紙が届きます。そこへ無邪気に紙飛行機を持って出てくる金太。山本少尉は慌てて手紙を隠します。そして山本少尉を相手に漫才の練習をはじめる金太。一応台本どおりに漫才を進めていきますが、言葉遣いが違うのでこの漫才も面白いです。特に、金太にツッコミ(といってもいわゆる『なんでやねん』ではなくて、柔道のように相手を地面にたたきつけるんですが)を決めた時の山本少尉のすっきりした顔。金太は何か様子のおかしい山本少尉に尋ねます。そして手紙の事を打ち明ける山本少尉。その手紙は彼の母親が空襲でなくなったことを知らせるものでした…「神宮での学徒出陣式の時にはあんなに元気な笑顔で見送ってくれたのに…。僕が特攻隊に編入された時、お母ちゃん、何にも言わずにただ黙って淋しそうに笑ってた。優しい母ちゃんだった…僕より先に死ぬなんて……」泣き出す山本少尉。金太も悲痛な声で叫びます。「どうして同じ人間同士が殺しあうの…僕達の時代にはあんなにアメリカと仲が良かったのに、人間ってそんなにアホやったんか。それやったら算数のできないアホな僕の方がよっぽどましや!」そこへ兄貴が山本少尉を呼びにきます。岸田中尉たちの分隊に突撃命令が出されたのです。出撃するのは山本少尉と松嶋少尉と決まりました。
兄貴は何とか思いとどまってほしい、一緒に逃げようと山本少尉に訴えます。「もうすぐ戦争が終わるのにわざわざ死んでいくことはない」と。けれども山本少尉の考えは変わりません。「自分だって、研究半ばにして、この若さで死んでいくのはいやです。もっともっと生きていたい。それに怖い。敵艦に突っ込む時は発狂するかもしれない。オシッコちびるかもしれない。でも今度生まれてくるときは絶対平和な時代に生まれてくるような気がするんだ。『死は新しい生への始まり』なんだ…と。
そして2人は出撃します。山本 勉海軍少尉、沖縄沖にて特攻戦死。立ったままでその様子を表現しているのですが、このときの彼の叫び声…言葉にならない叫び声でした。そして松嶋少尉は零戦がうまく動かず、天候も悪かったため途中で帰還してきました。
部屋へ戻った松嶋少尉のもとに山田分隊長がやってきます。彼の胸元にある聖書を見つけ、松嶋少尉を問いただす分隊長。「これは何だと」尋ねる分隊長に対し、「聖書であります」と答える松嶋少尉。その瞬間、山田分隊長が松嶋少尉を竹刀で殴りつけます。以前に焼き捨てろといわれていたにもかかわらず、松嶋少尉はずっと聖書を持っていたのです。命令を聞けないのなら原隊復帰させるという分隊長に対し、特攻任務から外さないでほしいと訴える松島少尉。その証拠に聖書を踏んでみろと分隊長は言います。一瞬聖書を見つめ、恐る恐る一歩を踏み出し聖書を踏む松嶋少尉…寺川中尉に聖書を焼き捨てるようにいい分隊長は去っていきました。自分を支えていたものに対して、このような行動をとらなければならかった彼の気持ち…私にはわかるはずもないのですが、無言で必死で歯を食いしばって堪えている姿になんともいえない気持ちになりました。
聖書を持っていこうとする寺川中尉の前に立ちはだかる金太と兄貴。寺川中尉は自分の袖で汚れを拭くと、「死ぬ時はこいつも一緒に連れて行ってやれ」と松嶋少尉に聖書を返してあげました。「ありがとう…ございます…」と深々とお辞儀をしてその場を去る松嶋少尉。兄貴と金太も声にならないような声でお礼を言います。
そして寺川中尉も出撃する時がやってきました。机に向かい遺書を書く寺川中尉。その内容がナレーションで語られます。「…(前略)父上への最大の不幸は一度として父上をお父さんと呼ばなかった事です。しかし、私は最初で最後ですけれでも突入寸前にお父さんと…」とここまで書いて便箋を破り捨て、もう一度書き直します。「それでは皆様お元気で。さようなら。隆二」と…そして髪を切り、手紙と一緒にしまいます。そこへやってくる兄貴。必死で止めようとします。強制的な任務だと言い張る兄貴とあくまでも志願だと主張する寺川中尉。「何が、天皇陛下万歳じゃ。天皇陛下からの贈り物じゃ。こんなもこうして、くそくらいじゃ!」と綺麗にたたんであった彼の飛行服一式を床に投げつけます。その瞬間兄貴に殴りかかる寺川中尉。そして彼はこんな事を言います。「貴様がまだ正常だった頃、俺が特攻に志願するか悩んでいた時、貴様は俺にこう言ったんだ。母や父や兄弟や愛する人たちが目の前で殺されていくのをただ黙って指をくわえてみているだけかって。命を張って助けるのが人間じゃないのか…だから俺は喜んで志願したんだ。恨むならこういう時代に生まれた事を恨もうなって…(中略)この俺のこんな小さな命で日本を勝利へと変えられるならば、俺は喜んで突っ込んでいくよ…」そうして部屋を去る寺川中尉。
その夜、兄貴と寺川中尉がグランド(滑走路かもしれません)に立っています。海軍兵学校時代は岸田中尉がいつでも一位で、寺川中尉と同期の松井という人がいつも2位を争っていたのです。兄貴自身は足は遅くていつでも徒競走ではビリでした。けれども、兄貴は徒競走で寺川中尉に勝ちます…そして寺川中尉は兄貴(岸田中尉)に謝りはじめます。死ぬのが怖くなって2人で芝居をしていたんじゃないかと疑っていて悪かったと。そして、「岸田、早く病気治せよ。山本や松嶋と天国で待っているからな!」といって立ち去ろうとします。必死で止めようとする兄貴に対し、寺川中尉は「もう寝させてくれよ。俺にとって最期の夜なんだ。ゆっくりいい夢でも見させてくれよ。」と言って立ち去ります。最期に振り向かずに「岸田…負けないでくれて、ありがとう」という言葉を残して…
そして、寺川中尉と松嶋少尉の出撃の場面になります。またも動かない松嶋少尉の零戦。寺川中尉は離陸していきます。何とか動かそうと必死の松嶋少尉。けれども零戦は動かず、次の瞬間爆音が轟きました。一方、寺川中尉は「お父さ――ん!」と叫びながら突入していきました。松嶋 聖海軍少尉戦死。寺川 隆二海軍中尉九州東南沖にて特攻戦死…
とうとう兄貴と金太だけになってしまった分隊。部屋を掃除している二人のところへ山田分隊長がやってきます。松嶋少尉の位牌の前に置かれた聖書を見て愕然とする分隊長。松嶋少尉が出撃直前に焼き捨てておいてくれと残していったのです。その聖書を抱えて無言で部屋を去る分隊長。
突然金太が「病気が直ったといってくる。」と言い出します。驚く兄貴。「何のためだ、お国のためでありますか!天皇陛下様のためでありますか!」と怒り出す兄貴に対して、金太は「お母ちゃんのためだよ!」と言って一枚の写真を見せます。それは、福元少尉が幼い妹と一緒に写った写真でした。福元少尉は山本少尉に預けていたのですが彼(金太)が戻ってきた時に、山本少尉が岸田中尉(兄貴)に返しておいてほしいと渡したものでした。しかし裏にかかれた名前を見て兄貴が隠しておいたのです。その女の子の名は福元 貴子。金太のお母さんの結婚前の名前でした…。
「バカ!お前はいつになったら俺を安心させてくれるんだ…」と泣きながら言う兄貴に向かって、「兄貴!たとえ殺されても僕は行くよ。僕の体で敵からお母ちゃんを守るんだ。僕を生んでもらうためにも。バカな僕ができる最初で最後の親孝行だからね!!」何もいえない兄貴。兄貴も告白します。「この数日はもう1人の自分との戦いだった。だんだん自分の影が薄くなっていくのを感じていた。このまま生き延びたら三十数年後には自分達が生まれてくる。そうすると自分達がそれぞれ二人いる事になって、歴史は成立しない。俺達はいつかは消える運命にある。元の持ち主に返そう。よく考えてみれば、トラックにひかれて死んでいたのかもしれない。それがこうして2週間も余分に生きる事ができた。だからいつまでも自分達のワガママを通すわけにはいかない」と。金太も「体は滅びても魂は永遠だよ。またどこかで兄貴に会えるさ。山本さんや寺川さんたちにもね。死は新しい生への始まりだよ。」…客席からはすすり泣きが聞こえてきます。
兄貴は「有名な漫才師になれへんかったけど、また今度生まれ変わったら、俺達の夢実現しような…お笑い名人大賞、たとえ何千年かかっても…」と言い、金太も「うん。でも僕は何でもいいからまた兄貴とめぐり合うだけでいいよ。」と言って二人は泣きながら抱擁しあいます。
次の朝、2人は一緒の零戦に乗り込んでいきます。岸田中尉と福元少尉として。けれども「兄貴!」「金太!」とお互いを呼びながら突入していきました。
会場に心臓の鼓動と赤ちゃんの泣き声が響きます…暗転が明けるとベンチに座る兄貴と神父さん。「…目が覚めると俺は病院のベッドの上。そっと隣りを見ると金太が静かに息を引き取ったんや。あの出来事か現実だったのか、夢だったのかはわからないけど、俺の大事な友達が死んだ事だけは事実や…まぁ、これが俺のアメージングストーリーっちゅうやっちゃな…っておっさん?」、見ると神父さんは寝てしまっていました。寝てないと言い張る神父さん。「それで、トラック事故に遭ってどうしたの?」という神父さんに、「寝てたんかい!また1から話さないかんのかい。2時間かかるで、声出ぇへんがな」と突っ込む兄貴のセリフに、思わず笑ってしまいました。(この作品は休憩無しの2時間30分です。)恥ずかしそうにする神父さんに、兄貴も思わず笑ってしまいます。神父さんに「漫才はどうするのですか?」と聞かれると「相方もおらんし、もう故郷に帰るんや」と言います。兄貴は神父さんの顔をまじまじと見つめ、「どこかであった事がある…」と言い出します。神父さんも「会ってますよね。」と少し嬉しそうです。そして大事そうに抱える聖書を見て兄貴はハッとします。名前を聞こうとしますが、新幹線の時間が来て神父さんは行ってしまいました。
神父さんを見送り、ベンチに戻ってくるとそこには1人の妊婦が座っていました。兄貴も再びベンチに座り彼女と話をはじめます。そして彼女が、「これからお盆帰りですか?」と尋ねた時兄貴はこう答えました。
「ええ… いや、今東京に出てきたばっかりなんです。これから漫才師になるんです」と…
楽しそうに彼女と話をする所で物語は終わります。
なんだかあらすじばかり書いてしまいました(これでもかなり省略しましたが)ので全体的な感想を少し。最初は着崩していた軍服が次第にキッチリなっていくあたりに、兄貴と金太のなかでだんだん岸田中尉と福元少尉が大きくなっていくのがわかりました。兄貴の「兄貴、もう疲れた…」というセリフや、「2週間も余分に生きることができた」というセリフに涙が止まりませんでした。ラストで少し笑いが戻ってきていたのですが、兄貴の最後のセリフで号泣してしまいました。
平和であるってどういうことなんだろう。もっと生きていたかっただろうに、死に向かわなければならなかった彼らは一体どんな気持ちで死んでいったんだろうと思いました。戦中・戦後の話は映画で見たり、祖母たちから聞いたりもしていました。けれども生身の人間が直接訴えてくる演劇という手段でこういう作品に出会ったことは、それまでとは違った衝撃がありました。
カーテンコールで元自衛官が作った右翼芝居だとか、逆に反戦自衛官だとか言われたと、今井さん自ら仰っていました。(ちなみに、フリートークで言っていた関西から出てきて横須賀に住んでいたというのは、自衛官時代に横須賀の駐屯地に配属されていたという事だそうです。)
この作品が上演され始めて今年で13年目だそうですが、題材が題材だけに一度もスポンサーがつかなくて苦労された事もあったそうです。それでもこんな風に仰っていました。「けれども今、この平和な時代にこういう作品ができることを感謝しています」と。残念な事にこの全国ツアーを最後にこの作品の幕を下ろすそうです。今回の横須賀公演は興行的には失敗だったけれども、米軍基地、自衛隊の駐屯地のある横須賀で公演できて良かったと仰っていました。私も最後のツアーになったけれど、この作品に出会えて本当に良かったです。笑って泣いて、あっという間の2時間30分でした。