ロマンス
不滅の棘(とげ)
作・演出:木村 信一
作曲・編曲:高橋 城、鞍富 真一、宮原 透
日程:2003年3月28日(金)〜4月3(木)
会場:赤坂ACTシアター
主な配役(プログラム掲載順・敬称略)
役 名 芸 名 愛 称 エロール・マックスウェル(公演の為プラハに滞在中の有名歌手)/
エリイ・マック・グレゴル(宮廷のお抱え歌手)/
エリイ・マクロプロス春野 寿美礼 オサちゃん フリーダ・ムハ(『プルス事件』裁判の原告)/
フリーダ・プルス(エリイと愛し合った令嬢)ふづき 美世 ふーちゃん アルベルト(弁護士コレナティの息子) 瀬奈 じゅん アサコちゃん ハンス(フリーダの訴訟相手の息子) 彩吹 真央 ゆみこちゃん コレナティ(『プルス事件』裁判の弁護人) 夏美 よう はっちさん タチアナ(プルス男爵未亡人。フリーダの訴訟相手) 梨花 ますみ みとさん カメリア(謎の老婆) 翔 つかさ つうさん ヒロムニエス・マクロプロス(エリイの父) 大伴れいか みおさん 道化(フリーダの使い) 高翔 みずき さおたさん クリスティーナ(タチアナの娘) 遠野 あすか あすかちゃん
あらすじ&感想
観劇日:
3月30日(日) 11:00 〜 / 26列10番
第1幕
1603年、ギリシャ・クレタ島。医師ヒロムニエス・マクロプロスは不死の秘薬と偽り、国王を欺いたとして、王の刺客に襲われる。死に際、息子エリイに飲ませた薬だけが本物であるとエリイ自身に事実を告げる。この時のオサちゃんは少年姿なのですが「僕を実験台にしたんだね」というセリフ(だったと思います)が切ない〜。時は移り、1816年、チェコ・プラハのカレル橋。エリイは令嬢フリーダ・プルスから愛を打ち明けられる。冷たく突き放すエリイも一途なフリーダに心惹かれ愛し合う。
1933年のプラハ・カレル橋。カレル橋が出てくる場面はアンサンブルの皆さんが歌と踊りで説明していて、前の場面と同じ歌詞なのですが、曲の雰囲気と衣裳が変わったことで時が移ったことがわかりました。孤独のうちに育ったフリーダ・ムハは100年も前から続いた裁判で争っている。彼女は弁護士コレナティの意見を無視し、訴えを最高裁に持ち込んだが、間もなく敗訴の判決が下ろうとしている。コレナティの息子で助手のアルベルトの何故訴訟を急ぐのかという問いにフリーダは「命は短い。だからお金が惜しいの」と答える。セットの中には背の高い書類棚が置かれており、そこへ大きなハシゴがかけられていたのですが、そこへ登ったフリーダを心配するアルベルトが可愛い♪
そこへ公演のためにプラハに滞在中の有名歌手エロール・マックスウェルが現れる。驚く一同に「リラックスして。硬くならないで」と歌います。この時のスター然としたエロールがカッコいい!白い毛皮のロングコートがとても似合ってました。オサちゃん、顔が小さくてビックリ!でもチョットコートがお化粧で汚れていたので、衣裳部さん綺麗にしてあげて〜と思っちゃいました(^^;;。フリーダの裁判に興味を示したエロールは裁判の経緯(フリーダ・プルスの死後、フリーダの遺産はプルス家が引き継いだが、フェルディナント・ムハ(フリーダ・ムハの曽祖父)と名乗る人物が現れ遺産を相続する権利を主張し裁判を起こした。フリーダ・プルスが亡くなる前に、フェルディナントの寄宿舎を訪れ領地を譲ると宣言したが、書類に残されていない為プルス家側と争っている。)を聞いた後、100年のもの前の事件についての情報を話し出す。証拠を欲しがるコレナティにエロールは「証拠は訴訟相手のプルス男爵邸にある。今夜それを盗みにいこう」とこともなげに言い出す。
プルス邸には未亡人タチアナ、酒に溺れる毎日を送る息子ハンス、そんな兄を心配する妹クリスティーヌが暮らしていた。邸に忍び込んだエロール・アルベルト達はクリスティーナに気付かれてしまう。エロールは取り乱したクリスティーナをなだめようとするが、彼女はエロールに向けて発砲してしまう。しかしエロールは傷を負いながらもクリスティーナに明日の自分の公演を見に来るように言い残し邸を後にする。
そして、エロールのコンサート当日。客席には公演が始まっているのに姿を見せないエロールの身を案じるフリーダや公演の行方を見守るクリスティーナ達の姿がある。舞台でエロールを称える歌が流れる中、「スターは必ず甦るのさ」と悠然と微笑みながらエロールが現れる…。この時オサちゃんは女役として登場し、歌の途中でコートとカツラをとってエロールとなって登場したのですが、口元を大きな扇で被って歌っていたので初めは他の人の吹替えかと思っていました。オサちゃんは歌の上手な方なんですが、ファルセットもあり音域の広さにビックリしてしまいました。歌の途中で口を思い切り拭って口紅が頬の半分ぐらいまで伸ばされてしまったのですが、驚くと同時にセクシーさも感じました。調べたところハプニングではなく演出でした。血が滴るような口元と鋭い視線にすごくドキドキしました。
第2幕
開演5分前になると、掃除婦役の3人(みおさん、さおたさん、さちみ(幸美 杏奈【さちみ あんな】さん)が登場し、おしゃべりしながら掃除を始めます。「エロールさんの羽が落ちてるね」と言いながら拾い上げた羽を最前列のお客さんに「ハイ、あげるよ。」と手渡したりと面白かったです。
公演が終わった劇場をクリスティーナが訪れるが、掃除係の人たちに「ここにはいない」と言われる。すると並んでいた椅子の内の一つが反転し、そこにはエロールが!休憩時間の時からそこに座っていたのですが、その様子を想像して思わず吹き出してしまいました。彼の怪我を心配し訪ねてきたクリスティーナに対し、気にしないように言うエロール。それでも尚心配するクリスティーナに「個人的にお願いしたい事がある」とエロールは言い、2人はその夜の2時過ぎにカレル橋で会う約束をする。そこへタチアナが現れ、何故財産争いをしなくてはならないのかを打ち明ける。プルス家が引き継いだ土地から鉱山が発掘された為、プルス家側も土地を譲りたくないと裁判で争っていたのだ。しかし、フェルディナントの出生証明書がプルス家に保管されているというエロールの言葉でアルベルトたちはプルス家に忍び込み、そこで見つかった出生証明書を裁判所に持ち込み、不利だった裁判に勝つ事が出来た。勝ち誇ったように現れるフリーダ。
コレナティが裁判の結果を報告し帰ろうとすると、フリーダはお礼が言いたいとその場に残る。自分に幸せになって欲しいといっていたエロールにフリーダは愛を打ち明ける。この時の歌が冒頭のフリーダ・プルスがエリイに愛を打ち明けた時の歌と同じなのですが、別の人が歌っているように聞こえて流石だなと感じました。しかしエロールはフリーダの愛を受け入れようとはしない。そこへエロールを『エドガー』と呼ぶ1人の老婆(カメリア)が現れる。「50年あんたを待った」と言いエドガーとの思い出を話し出すカメリアに、エロールも彼女を抱きしめる。それを見たフリーダはショックを受けて立ち去ってしまう。エロール(エドガー)に請われ、昔(村一番の娘だった頃)のように歌いだすカメリア。それを見たエロールも「今夜は飲もう!」と皆に大金を渡す。1人きりになったエロールは自らの終わりが近付いているようなセリフを言うのですが、この時の「フリーダ!」という叫びが切なかったです。椅子に座りすっかり眠ってしまったようなエロールを戻ってきたアルベルトが見つける。そしてアルベルトはフリーダへの思いを歌う。この時のアサちゃんの歌が幼馴染であるフリーダへの思いが伝わってきて良かったです。
深夜のカレル橋。ハンスは酔って橋の上で眠ってしまう。約束どおりカレル橋で落ち合ったエロールとクリスティーナ。エロールはクリスティーナに『邸にギリシャ語で書かれた古い赤い封筒』がないか尋ねる。封筒を欲しがるエロールに、クリスティーナは赤い封筒は秘密に受継がれていくものだと母親から聞かされていた、母親を裏切れないと持ち出す事を一旦は断わるが、エロールのために封筒を持ち出す事を決意する。見返りとして自分と結婚してくれる事を条件に…。届けを出すだけならできるがそれ以上は何もできないと言うエロールにクリスティーナは「自分があなたが私を愛してくれるように変えてみせる」と言う。するとエロールは結婚に同意する。そこへ娘の様子がおかしいと後をつけてきたタチアナが現れる。クリスティーナを家に帰したタチアナは自分の相手をする事と引き換えに封筒を差し出す事を約束する。エロールとタチアナが一緒に立ち去ったのを見たクリスティーナは悲しみのあまり橋から飛び降りてしまう。彼女が水に飛び込む音で目覚めたハンスはクリスティーナの遺書を見つける…。
一夜が明けたホテルの一室。約束どおり封筒を受け取ったエロールが機嫌良さそうに酒を飲んでいるとタチアナへ邸からの使いが現れ、クリスティーナが自殺した事が知らされる。クリスティーナの死を責めたてるハンスに凄みがありました。何もかもがエロールのせい、殺してやると取り乱すタチアナに、「あばらから出てきたものだ。殺せるものなら殺してくれ」とクリスティーナに撃たれた時の銃弾を見せるエロール。そこへ一晩中飲み明かしたカメリアたちが訪れる。カメリアはエロール(エドガー)からもらった手紙を嬉しそうに見せる。上機嫌に酔ったエロールとカメリアの歌で皆が盛り上がっているところにアルベルトが筆跡鑑定人を伴って現れ、エロールを公文書偽造で逮捕すると言う。裁判に関係のないエロールが出産証明書のありかを知っていた事に疑問を感じたアルベルトは、エロールのポスターに記されていたサインと出産証明書のエリイ・マック・グレゴルのサインに共通点を感じ、コンサート終了後にエロールからもらったサインを元に筆跡鑑定を依頼し、その結果筆跡は同一人物のものとの結果が出たのだった。
アルベルトと共に現れた刑事や皆の前で本名・年齢・出身地など何から何まで不明となっているエロールが、自らについて語りだす。本名はエリイ・マクロプロス年齢は348歳…。エロールの言うことを信じようとしないアルベルトたちに、エロールはカメリアに宛てた手紙を筆跡鑑定人に見せる。50年前の手紙とエロールの筆跡が同一人物のものであるとの筆跡鑑定人の判断に驚きながらも信じてくれないアルベルトたちの前で、エロールは銃で胸を打ち抜く。銃で胸を打ち抜いても生きているエロールは自らの生い立ちを更に詳しく話す。プルス家に保管されていた赤い封筒の中身はエリイの父が作った不死の薬の処方箋だった。不死の命を得、身分を変えながら生きてきたエリイがたった一度だけ愛した女性、それがフリーダ・ムハの祖先フリーダ・プルスだったのだ。悩んだ末、薬の処方箋をフリーダに託したエリイだったが、命を操る事は神の領域と考えていたフリーダは息子・フェルディナントと共に処方箋を持って姿を消した…。
薬の効果が切れると死を通り越して砂になってしまう為、エロールは処方箋を手に入れるためにプラハに戻ってきたのだった。薬の処方箋を手に入れたエロールだったが全てに疲れてしまっていた。理由を尋ねるフリーダに「お前らに分かってたまるか!」と言い放つエロールの迫力にゾクっとしました。『限りある命を持っているということがどれだけ幸せか、終わりがあるから今に価値がある。けれど終わりのない自分は何を信じればいいのだ。』という内容のエロールの歌に思わず涙してしまいました。フリーダ・プルスがエリイの前から姿を消したのはエリイを愛していたからだと言うフリーダ・ムハに「愛なんて信じない」と言うエロール。不滅の命を得たエロールの心に残っているものはフリーダの笑顔とフェルディナントの鳴き声、そして3人で暮らしていくというささやかな夢…。愛した女性と息子を思って歌うオサちゃんの歌声にまたも涙してしまいました。
エロールは自分が消える前に処方箋を誰かに渡そうとするが、誰も受け取るものはいない。最後に処方箋をフリーダに差し出す。彼女はそれを受け取ると暖炉にくべて燃やしてしまう。それを見たエロールは「よくやった!」と言って消え去ってしまい、後には砂だけが残った…。
感想
宝塚らしくない話のようでもあり、宝塚らしい話でもあった珍しい作品だったと思います。観た後に「永遠ってなんだろう。生きていくってなんだろう」ととても考えさせられました。通常、お芝居の後に簡単なフィナーレナンバーがつくのですが、今回はフィナーレ無しでそのままカーテンコールになったのも芝居の余韻を味わう事が出来、フィナーレがない事は気になりませんでした。チケットがすごい争奪戦で最初で最後の観劇となってしまったのですが、チャンスがあればリピートしたかったです。個々の役の感想を書き出すととても長くなってしまうので、メインの役の方の感想だけ簡単に書いてみます。
主演のオサちゃんは主人公にしては珍しいくらいニヒルで冷徹な部分のある役だったのですが、長い時を生きていくうちに、人と係わり合いを持っても誰もが自分より先に死んでしまうという現実、どんなに愛していても一緒にはいられない苦しさを知っているが故の行動なんだなと感じました。スター・エロール・マックスウェルの部分は文句無しにカッコいい!!
2番手のアサコちゃんは出番が少なく残念だなと思ったのですが、フリーダを思うあまりエロールを追い詰めてしまう部分や、フリーダを優しく見守るお兄さんのような部分はよかったです。特に弁護士事務所の場面でハシゴに登ってしまったフリーザに優しく「下りておいで」と声をかけるところがこんなに温かみのあるセリフを言える人だったんだ〜と客席でドキドキしてしまいました。いつかオサちゃんとガッチリと組んだお芝居が観てみたいです。
これがトップ娘役お披露目になるふーちゃん。私は意識して彼女の芝居を拝見するのは初めてだったのですが、二役を演じ分けお芝居が上手なんだなと思いました。フリーダ・プルスがエリイに愛を伝えようとする場面と、フリーダ・ムハがエロールに愛を伝えようとする場面が、時代は違うのに思いがシンクロしているように見えてとてもよかったです。
ハンス役のゆみこちゃんも出番がとても少なく、もったいないとはじめは思っていたのですが、出番は少なくても荒んだ生活の中でクリスティーナだけが救いだったというのが伝わり、そのクリスティーナを失った事で狂ったように母親を責める場面はとても凄みがありました。
クリスティーナ役のあすかちゃんはしっとりとした雰囲気が出てきて良くなったな〜と思いました。以前はとても現代的な持ち味の娘役さんでしたが、クラシカルな作品もどんどん合うようになっていってくれるといいなと思います。
他にも脇を支える役は上級生がしっかりと支え、アンサンブルの下級生にも少しずつですがソロがあったりと出演者全員が輝いていると思いました。下級生の中ではダンサー役の花野じゅりあちゃんがスタイルが抜群でとても目立っていました。
作品自体の感想としては、何故エロールは薬の処方箋をフリーダが処分したとは考えなかったのかとか、フリーダは何を思って処方箋を残したまま死んでいったのか、ラストで他の人間に処方箋の処分をさせようとしたのは何故なのか、などなど観た後に深く考えさせられ、観た人1人1人が色々な解釈(理由付け)のできる幅の広い作品だなと思いました。エロールの命の限りがあるから今という時間に価値がある』という歌詞(うろ覚えですが)に深く考えさせられました。上にも書きましたが、できるならもう1度観たかった(笑)!