『大学入試センター作問委員の理想と現実T』〜佐藤恒雄〜
○ 入試センターの作問委具に任命される
私がセンターの作問委員に任命されたのは,2000年の4月である。ちょうど櫻が満開の季節で,センター本
部の庭の櫻は見事であった。私は定年退官を1年後に控えての任命だったので,任期は1年という約束の短期間
の委員であった。
私には,センター試験に対して特別の思い入れがあった。センター試験の前に行われた共通一次の最初の作問
委員に千葉大学から推薦されたが,その条件として,教科書執筆はダメ,参考書執筆もダメ,ラジオ講座の出講
もダメ,もちろん予備校関係もダメ,とあらゆる禁止条項が付いており,私は作問委員を断念した。私は作問に
関して,日本で五本の指の中に入ると自負していたし,大学でもその作問能力を高く評価していて,貢献を期待
していたが,共一では,むしろ,入試や高校の数学教育に疎い大学の先生方を委員として求めていたのである。
その理由は,作問委員は徹底した秘密裡に作業を行うべきものと考えられたからである。しかし,これほど秘密
にせずとも,国立大学の入試問題漏洩は起きてはいない。20年後共一からセンター試験に変わった時に,再び,
私は大学から作問委員に推挙されたが,参考書執筆者はダメという条件に抵触したので,センターとは縁がなか
った。そして,定年退官を1年後に控えての委員就任は,センター本部があらゆる条件を撤廃したからである。こ
れは,本部が作問委員には高校の数学を熟知し,大学入試の作問に卓れている人が適している,という簡単明瞭
な事実にやっと気付いたからである。したがって,最近の委員のなかには,教料書,参考書執筆者や大学入試作
問のベテランがいるようである。このことは,センターにとっても大変喜ばしいことだと思う。
○ 作問委員の任期は2年
作問委員の任期は原則として2年であり,各委員は2年のうちの前半の一年を新入生,後半の一年を古参兵と
して過ごす。委員の半数が毎年交替する。委員の誰もが,半数の人を見送り,新たに半数の人を新入生として迎え
入れ,自分は古参兵となる。数学部会には,2つの部会があって,「数T・A」担当,「数U・B」担当があり,
メンバーはともに14人から構成され,それぞれ独立している。
私は新入生として,「数U・B」部会に所属したが,私達(見習い)7人の仕事は,最初の2ケ月間,ひたす
ら問題を解くことであった。前年度の14人の委員達が作問した未完成の問題50題をひたむきに解いたのであ
る。古参兵が,新入生の実力がどの程度のものであるかを知るには,問題を解かせることがもっとも合理的な方
法であろう。私の両隣りの先生方は,東大・京大出のかつては入試に関しては歴戦の強者であった。その先生方
は,数学の専門家であっても,10年,20年と時がたつと,入試問題を解く速度が鈍るものらしい。最初は1問
に1時間もかけて解くこともあったが,それが2問目は45分,3問目は30分,と加速度がついて釆て,やがて2
ケ月もたつと,1問15分前後に収束する。そして,このレベルこそ,この問題の難易度なのだと思い知る。こ
れらの数学の専門家が2ケ月間問題を解く訓練を続けた結果,解くのに15分かかるとすれば,この問題のレベ
ルがそうなのであり,センターの問題としてはやや難と評価してきたのである。そして,10分前後で解ければ
難易度はセンターの問題として妥当と評価したのである。
○ 新入生は身体で難易度を覚える
部会の約束事に,部会長の命令には絶対に従うということがある。新入生は問題の難易度を身体で覚えるため
に,2ケ月間,必死で問題を解いたのであった。なぜ必死かというと,新入生は,7人の古参兵の前で,前に出
て白板に解答せよという命令が部会長より出る。もし解けなければ,失笑を買うので誇りが許さない。それで,
皆真剣に解くのである。幸い,私達新入生は,粒ぞろいの解答の達人であったので,センター史に残るほど有能
な人材であった(?)。それで古参兵の前で恥をかくことはなかった。むしろ,問題のミスすら指摘したのである。
6月に入ると,センター本部は新緑につつまれる。その頃になると,新入生にも余裕が出てくるので,1月に
実施した2000年度の問題(本試と追試)を受験生になったつもりで解答し,実際にマークしてみる。そこで,そ
の年のセンター問題のレベル(難易度)を体験するのである。ほとんどの人が1問を10分以内に解き,難易度
が妥当であったと感じるのである。この体験を基にして,いよいよ,2001年度の問題の検討に入るのである。
この問題はすでに前年度の委員会が作問したものでほとんど完成しているものと考えられる問題であるが,新
入生の数学的な感覚にはどのように写るか,難易度や文章の明瞭さなどはどうなのかを吟味しよう,というので
ある。
○ 2001年度の問題の検討に入る
この作業には2ケ月かけて議論した。その会議では,新入生の委員は(8)から本質的な意見が出された。秘密を守
るため会議は名前を呼ばず,番号で呼ぶ。
新入生(8)「センター試験は,大学入学資格試験を目指すのか,それとも,高校の教科書終了程度を到達度として
その判定に資する問題を作成するのか,はっきりしないのでおたずねしたい。」
これに対して部会長答えて日く
部会長「大学入試センター試験は,入学志願者の高校の段階における基礎的な学習の達成の程度を判定すること
を主たる日的とするものであります。したがって,御意見の後者の方に近いのではないかと思われます。」
新入生(8)「そうすると,この趣旨に従って作問すればよいわけですね。ところが私達が2ケ月間先生方の作成さ
わた問題を解いて感じたことは,問題の程度と内容が到底基礎的な学習の達成程度とは思われないですし,教科
書の程度とはかなりの隔たりがあるように思われるのですが。」
部会長「現実のところ,8番の先生のおっしゃる通りです。基礎的な学習の達成度をどの辺にとるか人によって
異なるでしょうが,教科書程度に沿って作問しますと,難易度が著しく低くなり,受験生の半数が満点をとるこ
とになってしまい,資格試験でもなく,また,受験生の適性・能力を判定することにもならず,大学がセンター
の結果を利用しないことにもなってしまいます。これは,センターの自滅につながりますね。」(一同苦笑する)
古参兵(9)「私の大学のある県内のどの高校も数学の授業の日標を,センター問題をクリアーするということに置
いていると聞いております。多分田舎の高校ははとんどそうなんじゃないですか。現実がそうであるとすると,
センターの問題を部会長のいわれた目的に適合するように作問すると,そのレベルが高校の授業の目標レベルに
なり,全体として,数学の学力低下につながるわけです。私は,わが国の数学教育に対して責任を感じております
から,これ以上問題のレベルを下げるわけにはいきません」(出席者一同大いにうなづく。)それを受けて,部
会長が「したがって,9番の先生がいわれた通り,入試センター本来の日的から多少はずれますが,わが国の数
学の学力のレベルを下げないためにも,指導要領を順守しながら適切な問題を作っていただきたいと思います。」
新入生(10)「部会長のおっしゃることは難かしい。指導要領を順守すると,融合問題は作れず単線的な作問になら
ざるをえない。そこで,部会長に作問の仕方というか作法を具体例を通して御教示してしていただきたい。
それから,新入生の4番つまり佐藤先生には,難易度の評価の仕方についてお話していただきたい,と思います。」(新入生のはとん
どの先生方が拍手する)
部会長「10番の先生の御意見がありましたので,明日私と佐藤先生がそれぞれ60分ずつお話しすることにし
ましょう。」
新入生(11)「ところで,このセンター試験が大学入学資格試験として位置付けることは可能なのですか。」
部会長「そのことを決めるのは,このような作問委員会ではなく,センター所長や副所長および理事連が会議を
して今後のセンターの方針として決定することですから,私達の意見ははとんど反映しません。もし,そのように
資格試験として機能させたいならば,これを国民の意志として,世論の形を取ることによってのみ可能でしょう。
試験時間の延長についても同様です。」
新入生(10)「わかりました。それでは,目下のところは,適切な良問を作問し,そのレベルをクリアーするのが全
国の数学の授業の目標となっても,学力低下を招かないレベルの問題を作問することですね。この一線はどうし
ても死守したいのですね。」(一同賛成の声をあげる)
この議論の後,前年度の委員が作成した問題の検討に入った。実際に解答に入ると,問題数は数U・Bは必答
2問,4問から2問選択,計4問解答で,これに数Uの2問があって,全部の問題数は8問である。本試験と追試
験は,同時に検討するので,計16問を実殊に解くことになる。1問1問問題文に感想を書き込み,どんどん解
いて行く。問題が解き終わると,例によって,部会長から命令が出て,新入生の教授が指名され,白板に向かう。
その姿を見て
「問題を当てられ黒板に向う学生の気持ちがわかるでしょ。」
と11番の先生がつぶやく。先生方がどっと笑う。彼は名前を秘しているが,人も知る俊才でT大教授である。
センターでの2年間が楽しかったのは,みんなが分け隔てなく本音の付き合いができたからであろう。彼は教授
であったが,問題の解答能力は若い助教授の8番,10番の先生方に劣らず速かった。
○ 改作を提案
提示された原案を解いて見て感じたことは,必答問題はどれも軽いという印象を受けたことである。私ばかり
でなく,新入生の誰もが同じ印象を持ったと見えて,誰かが,思わず
「手応えのない問題が多いですね。」
といえば,誰かも
「第3問と第4問はいいとして,第1問,第2問は何とかなりませんかね。これでは教科書程度じゃないですか」
といい出す始末。部会長も苦笑しながら
「実は,前年度(2000年)のセンター試験の問題が少し難かしく,平均点が57.3で,予定していた60点台を
割ったので,OB委員会の方から,2001年は少しやさしくして,平均点を60点台にもどすようにという指示が
ありましてね。こんな程度の問題になったのです。」
「何ですか,そのOB委員会とは?」
部会長「実は,この作問委員会で作った問題は,三つの委員会のチェックを受け,その助言を再検討します。三
つの委員会は,主として,センターの問題としての難易庶の適正,指導要領の順守,用語の適正,考え方や解き
方の適正,などを視点に吟味します。特に,このOB委員会はその名の通り,作問委員会の部会長を歴任された
先生方が秘密裡に担当されており,任期も組織もまったくわかりません。ただ本部は,このOB委員会の存在こ
そ,センター試験の統一性,継続性,一貫性を保つ重要な機関だと考えているフシがあります。というのは私達
の任期は2年で通行人のようですが,2年の間に行なった改善や改革(もしあるとすれば,ですが)が継続され
ることははとんどないでしょう。次年度の委員会が私達の考え方に賛同し,それを引き継いでくれるならば,何
とか続くでしょうが,それとて,作問委員全員が同じ考え,同じ理想を抱いて,作問しようという気持ちになら
なければ,継続するのは大変困難です。その点,OB委農会は,センターの核として,OB委員の考える一貫性,
継続性を主張することは容易です。そんなわけで,センターの問題も,OBの意向が強く反映して年毎に傑作あ
り。駄作あり,良問あり,愚問ありなのです。」
新入生(4)「今のお話しですと,2001年は駄作の年ということになりますね。うっふふふ。」
古参兵(9)「駄作とはひどいなあ。素直な問題といい直して下さいよ。」
新入生(4)「お気にさわったら,ごめんなさい。でも,第1問の(1)はtan15°の値を求めるための誘導は面白い
ですが。ただそれだけでしょう。狙いが何なのかわからない。(2)も相加相乗平均の不等式の利用を考えると,
実は,それはダメで,分母のsin2βの最大・最小の利用で,教科書の程度に収まっています。私立大の入学試
験を見ても,この程度の問題では合否判定には使えませんよ。もっと,手応えのある問題に替えないと信頼を失
なうでしょう。当然ながら,国立大の入学試験の難易度とも,乖離が大き過ぎますよ。」
古参兵(1)「実は,私もそれを危惧しているんですよ。4番の先生におたずねしますが,平均点はどのくらいにな
ると思いますか。」
新入生(4)「そうですね,できる人とできない人の差がつかなくて7割弱ではないでしょうか。今年の平均点が
57.3ですから,10点アップすると思いますよ。平均点が大幅に上がる予想ができるのにそのまま出題するのは,
やはり理由がなければいけないと思います。ゴルフでもないのに,大波小波の平均点では,定見がなさ過ぎると
思いますよ。」
部会長「今から問題をさし変えるとすると,これからの作問の予定が大幅に狂ってしまう恐れがありますので,
これはこのまま,眼をつむって下さいませんか。」
新入生(3)「それでは,私達の作業は一体何のためなんですか。例えば,第2問の[2]でsinβ=xと置き換える
ところまで誘導してあるところなど,本問の出題意図が何なのかわからない。ここまでやるなら,三角関数でな
くともよいのではないですか。出題意図がない問題というのは内容が貧相です。」
部会長「まあまあ。不快になるお気持ちはわかりますが,これは実は前部会長の強い意向によるものです。この問
題も,もとを正せば風格のある問題だったのですよ。今は,すっかり変わりましたが,はい。」
新入生(4)「わかりました。部会長,2001年度用の問題は,ここにおられる古参の先生方と前年度の先生方の合
作ですからその事実を厳粛に受け止めて,私達は口や手を出さないことにします。しかし,これから作問する
2002年に関しては,難易度の調整などは私達の納得できる線でやりたいと思います。私達はあまり平均点を気
にしないで作問したいのですよ。」
部会長「ああ,それもわかります。2001年度の問題は,前の部会長がまとめたものですから,止むを得ずこうなっ
たのだとお考え下さい。たしかに平均点に気をとられ過ぎると萎縮しますね。」
こんな具合に会議が進められて,2001年度の問題は,手を入れずに実施されたのである。因みに数U・Bの平
均点は68.9点であった。このときの旺文社の入試正解の総括では,この現象を「受験生が得点しやすい状況を
作っている点など,センター試験のひとつの方向性として評価できると思う。」と評価している。ここには,セ
ンター試験のあるべき姿について提言も希望もそして,哲学もない。
○ 2002年度問題の作問に入る
7月に入ると,本務の大学では,退官に際しての提出すべき書類が多く,センターに居る私と連格がとれず,
事務から呼び出しがかかる。事務の人に,遊んで大学にも釆ない,と思われるのも嫌なので,「実はセンターの委
員をやっているので,いろいろ御迷惑をおかけします」
と説明したら,納得してくれて厳しかった顔がやさしくなった。作問委員であることを周囲に秘しておくと,意
外な局面でひんしゅくを買ってしまう。作問委員のなり手が少ないのも,極端な秘密主義にあるのではないか,
と痛感した。古参兵の先生が,「わが国の数学教育に責任を感じていなければ,こんなにしばりの多いセンター
の作問委員など誰が引き受けるものですか」とぼやく言葉を想い出し,同感,同感とつぶやいた。
いよいよ,明日から,具体的な作問に入る。分野を指定しないで,一人当り4問のノルマが与えられる。合計
50題以上の作問がなされるはずだ。良問。駄問玉石混交だという。大学入試問題の作問と同じ方法だから,同
じ現象も当然起るだろう。その中から,互選で出題に適わしい問題を選ぶ。
○ 作問の理想
翌日,初めの60分,部会長が具体例を挙げて,作問の仕方,作法,心理を話された。図形と方程式の分野で,
円と直線の関係に着目して,円の接線をy切片を中心に45°回転したとき,角度について,ふつうはx軸と
のなす角の値をいうが,目先を変えてy軸とのなす角を与えてみるのもよい。とか,なかなか作問の手練の様
子。そういえば,彼はかつてはS予備校の看板講師だったことを想い出した。
次に,私が「数学の問題の難易度の評価の仕方について」という話をした。これは,私が安藤氏(元旺文社編集
集長)と十年来研究して来たもので,その成果はかなりの範囲で知られている。
参考にために,その概略を述べてみよう。
問題の難易度と生徒の問題解決能力とは表裏の関係にある。
大学の合格者判定会議でよく議論されることがある。それは,「一題20点で五題100点満点のテストがあると
しよう。A君は各問の導入部分の問題を上手に解いて,合計65点を得点した。B君は三問を完答して60点とっ
た。大学入試では得点評価であるから,A君が合格。B君は不合格。これは,本当に正しい評価なのか?」とい
う問題である。1問を完答するというのは。その分野で本当の実力がないとできないことである。このB君は。
時間があれば。他の2問も解けたかも知れない,という期待を抱かせる。その期待を含めた評価ができないもの
か,と私達は考えてきた。その方法が。ヒューレ値による評価法である。
これは,問題を解くとき,私達のとるべき態度は,千葉大学や知人の数学者に直接聴いてまとめてみると,ほ
とんど,次のように振舞うことが結論できた。問題を解くときに働く力は
まず,問題文を読み分析する力(読解・分析力)
1.問題の構造を分析する力
2.条件を把握する力
3.定義・定理を復元する力
つぎに,解答に向かって目標を設定する力(目標設定
力)
1.論理的に展開できる力
2.類似問題を連想し利用する力
3.具体化して様子を見る力
そして,内容を自分の言葉に置き換える力(翻訳力)
1.文字を使いこなすカ
2.図・グラフ・衰などを使いこなす力
3.文章または式を言い換えるカ
最後に,解答を作成する力(遂行力)
1.手法を選択する力
2.呂榛に向かって具体的に展開する力
3.設問を活用していく力
である。私達は,これら12個の力を数値化して問題の難易度と生徒の問題解決力の習熱度関係を表示するのに
成功した。その理論が妥当であることをl万5千人の高一生を対象にしたテストで実証したのである,などを許
しく話し,先生方に資料を配った。その資料を見たT工大の統計が専門の教授に「先生,よくできた結果です
ね」と褒められたときは嬉しかった。
終りに,「作問の心構えとして,作問者は問題を作るときに明確な作問の意図を持つべきであり,その意図を
探究するのが,数学の学習の目的である。高校数学の問題には,見える意図 見えない意図があるが,それを読
みとる力こそが数学の問題解決能力であり。それを評価するのがセンター試験であり,あるいは各大学の入学試
験であるべきだ。そして,作問の意図となるべき視点が上に述べた12個の力である。先生方が作問されるとき,
12個のうちのどの力が最も大きく作用するのか,それを意識しながら,問題を作問して下さい。」と話した。
この提案は全員の先生方から賛同され,私の評価法は作問に大いに活用されることになった。
○ 作問の現実は
2001年の3月に作間委員を辞任するつもりであったが,部会長や他の委員に請われて,また一年続けること
にした。楽しくも大変な作業であった。良問を産み出すための,まさしく,非凡な努力の連続である。平均点を
65点に目標を置きながら,本試と追試と予備の三種類を作成する。しかも,大手予備校の横試などはまったく
チェックしていないが。彼等が予想し得ないようなオリジナルな出題を目指している。一方では,2次試験に近
いレベルの問題を創造しようと努力している。本試と追試の違いは,正統的と前衛的の相違といえようか。
作問の苦悩の実情を来月号に実況放送の形でお知らせしたい。
2002年の問題の平均点は59.2点で,2001年より難かしかったが,予期していたほど低くはならなかった。こ
れには,理由が2つある。出題の意図がはっきりして問題にメリハリがついており,数学が得意な受験生はきち
んと解けたこと,2次試験の勉強線上にセンター試験があるように出題したこと。
作問委員の誰もが異口同音に「2次試験の他にセンター対策の勉強をさせたくない。」といっている。したがっ
て,きちんと数学を勉強した生徒が決して不利にならないような問題を作問しようと心がけた。この姿勢は,多
くの先生方から支持されると確信している。
2003年の問題は,この1月にお目にかけた。数U・Bの第1問[1]の狙いは,x≧0での絶対不等式を正しく
扱えるか,問題の構造を分析する力を見たい。[2]は翻訳カを見る問題。log3x=tとおいてa,b,c,dをtの
1次関数とみて,グラフを活用する力を見る。今回の傑作。
第2問は定積分の性質が正しく理解されているかを見る意図がある。さらに,曲線の横線を求め,微分を活用
する力を見たい。第3問は,空間のベクトルを扱う問題であるが,出題の意図は,AB,AD,AA´上にx軸,y軸,
z軸の座標軸をとり,頂点を座壕で表現することである。これで,時間がかなり短縮できるはず。120°も
読みとれればオマケだ。第4問は,偏角についての理解力を見たい。問題の構造が把握できるか。偏角が90°の
複素数は純虚数。これによって,z1が決定される。本問は今回の自信作。第5問は,確率変数の平均・分散を
扱う。2003年の問題の平均点は49.8点で,やはり低かった。がこれも止むを得ない,と考えている。(さとう つねお 千葉大学名誉教授,理学博士)