『大学入試センター作問委員の理想と現実U』〜佐藤恒雄〜

○作問委員としての収穫
 2年間のセンター委員を務めて,この期間の作問委員とは何であったかも 振り返ってみると,感慨深いもの がいくつかある。
 その1つは,作問のマンネリ化に風穴をあけたこと。マンネリ化は,現行課程になってから,殊に顕著であ りそれが数T・Aに甚だしい。
 例えば,“2次関数”の分野で出題することがきまっているので,どうしても2次関数の内容から出題しなけ ればならない。そうなると,題材がきまってしまって,頂点の座標,ある区間の最大・最小,x軸から切りと る線分の長さ,解の位置,平行移動 となるのである。これらがそれぞれ二度,三度とくり返し出題されると ほとんどパターン化され,マンネリ化が進むのである。
 予想問題が,この類似化に拍車をかけ,新味を失なわせている。そのためにも,センターの作問委員は,類型 化をさけ,新味あふれる問題を創出しなければならない。それには,なんとしても
   問題の複合化,融合化を考え,新味を出す
ことが必要となる。
 ところが,これを実行する段になると,必らず,強力な壁に突き当たるのである。その壁とは,何か。それは 指導要領である。例えば,放物線と斜めの直線の交点は除外されるのである。私は,数T・Aの作問委員にすす めたことがある。
 それは,問題に新味を加えるために,例えば,2次関数に格子点を考え,数列を融合させる問題など考えられ ないのか,というものであった。これに対して,その作問委員は,2次関数と数列の融合は,指導要領に書いて ないのでタメ,というのである。私は,反論した。
 「書いてないから,いいんじゃないですか」
 「いや,それがよいならば,どうして今まで出題されなかったのか。まずいから,出題されなかったのではな いか。」
 「では,試みる価値があるのだから,ぜひ作問してみて下さい。こういう状況を指導要領を書いた人達は想像 もしていなかったんですから。あとは指導要領の融通無碍な運用の問題なんですよ。」
という会話をしたが,実現されなかったところを見ると,やはりOB委員でダメになったのだろうか。思うに,2 次関数などは複合化を考えなければ,素材が単純すぎて,ありきたりの設問しかできぬのではないか。これでは, 単純な思考しかできぬ生徒が生み出されるのも当然ではないか。
 数U・Bの部会でも,複合化は難かしいが,題材が豊富なので,いろいろなことに挑戦し得たと思っている。  第2は,作問の意図をはっきりさせたこと。問題には作問者の考え,哲学が含まれていて,それが,その問題 の品格を現わしている,といえよう。
 その問題を解く受験者が,その能力が引き出されるような問題が望ましいのである。そして,大学への入学を 志顧する者が数学の問題を解くために必要とされるカ,すなわち,つぎの4つの力
   読解分析力,目標設定力,翻訳力,遂行カ
を適切に評価することを主たる目的とする作問に全力を傾注したのである。
 この視点で,問題に当たれば,解くことにさはど困難を感じない問題が出題されている。したがって,教室で は,先生方が,この4つの視点(人によっては言葉や表現は異なるかも知れないが)に立って,授業を展開して 下さるならば,解法能力は確実にアップされると思う。
 この傾向がいっまで続くかわからないところがまたセンターの特徴ともいえよう。それは,作問委員が2年毎 に変わるからである。変わらないのは,多分OB委員の先生方であろう。したがって,OB委員の意向が強く反 映されて,それが永く続くことになるかも知れない。
 その意味で,作問委員の意図の一貫性,継続性が保たれるような方策が考案されて然るべきなのである。
 第3として,問題のレベルを下げないように配慮したこと。センターの問題は,質と内容はともに,よく吟味 されて造られており,いかなる大学も,センターほど,このように,徹底した議論と検討をくり返し行い,しか も,いくつかのチェック機関を通して検閲し,その意見に基づいて,作問委員が再検討して,出題すペき問題を 決定する,ことはしないはずである。この意味でも,センターの問題は国家試験としての質と内容とレベルを十 分充たしていると思う。つまり,他に類を見ないほど,安心して受験させることができ,受験者の力を評価する 方策としても卓れているのである。
 しかし,すべての点で卓越しているわけではない。何度もいうように,問題は融合的な内容を含むことが困難 であるから,受験者の複合問題に対する解決能力を正しく評価することは難かしい。それでも,融合化して少し 難しくなると,解答する時間が足りない,という現実がある。これからのセンターの課題は,問題の融合化, 時間の確保の2点にしぼられると思う。これに関して,作問委員がいかに苦労したかを述べてみよう。

○ 作問委員としての作業
 2003年度(今年)の出題に関する作業についてとり上げてみる。時は,2001年の5月青菜若葉の薫る季節 である。
 まず,2003年度の出題に関して。部会長(2000年の部会長からバトンタッチして,新しく選ばれた)から5 月の終りに,分野を問わないで,一人三題から四題の作問を命じられる。七月までの2ケ月で作るのだ。といっ ても,すでに,作問委員になった時から,作問の心構えができているのがふつうだから,別に短かい期間という ものでもない。すでに私達は古参兵と呼ばれていた。
 七月の終りの会議日に,14名の新入生と古参兵が思い思いに,テフで打った問題を無記名で提出する。集まっ た問題は50題で。それを,三角関数,指数・対数関数,図形と方程式,微分と積分,ベクトル,複素数平面,確 率分布,コンピューター の分野別に分類して,14人分だけ複写する。この複写は,センターの事務室の責任 の下に行なわれ,すべての問題用紙に番号が打たれる。
 紛失すれば,どの問題が,誰の責任で紛失したかが直ちに判明する仕組みになっている。
 配ばられた50個の問題を新入生を中心に一生懸命に解いて,問題の難易度,意図(狙い),オリジナリティ, 解答時間,品格などについて感想を記録にとどめる。やがて,部会長が,にこやかに
「皆さんが解かれた50題の中で,第1問の三角関数と指数・対数関数の問題に適わしいと思われる問題を推 せんして下さい。問題の番号でお観いします。では,2番の先生から,順に,番号を述べて下さい。」
と発言すると,2番の委員から順に適切な問題の番号を挙げていく。こうして,2003年度に実施される問題の 素案が,2001年の7月に出来上る仕組になっている。したがって,予備校や塾の予想問題など,チェックしよ うにも出来ない状況なのである。だから,その分,問題に新味が要求されるのである。こうして,各委員から選 ばれた問題の素案が,いよいよ,センターの出題問題に適わしい形式と用語,範囲,難易度に注意しながら,吟 味されていく。5ケ月分の議論を1日に短縮した形でまとめてみよう。例えば,数U・Bの第1問[1]から始めると
部会長「この間凝の意思は,読解・分析力を見る問題ですね。絶対不等式の形を借りた三角関数の不等式の問題 です。OB委員会から,誘導問題をつけたらいいという提案ですがどうしますか。」
<これに対して,いろいろ議論したが,結局設問(1)をつけることにした。>
続いて[2]について
部会長「この問題は,出題の意既が翻訳力を見る,とはっきりしていますが,(2)のabcd>0 については log3x=tとおくと,a,b,c,dはtの1次関数ですから,積abcdはtの4次関数となるので不適当といわれませんかねぇ。」
古参兵(9)「tの4次関数と見てグラフを書くという発想なら指導要領に反する,ということでしょうが,tの 1次関数a,b,c,dのグラフをひとつずつ同一平面に書いて4本の直線の上下関係とその値の正負の符号を読 みとる,と考えれば全然問題にならないと思いますが。」
部会長「そうですね。それで論破できますね。本問の狙いは,(3)の大小関係ですから,これは問題ないです。」
<本問に対して。OB委員会から,やはり,tの4次関数の利用という懸念が指摘され,それを防ぐために,a, b,c,dすべてが正となる場合のxの範囲を求めるなどという設問が追加された。> 
古参兵(11)「このOB委員会のコメントからすると,4次関数の活用という考えが頭から離れないみたいですね。 これでは解法に時間がかかるのが当然ですね。」
部会良「第2問の定積分の問題,これでいいですね。(2)の接線。(3)の曲線と接線の囲む面積の計算,微積 分の問題としても,適切な難易度ですね。」
古参兵(6)「その通りです。難易度も時間も適当です。」
<本問に対して,OB委員から,面積計算が面倒だ。三角形の面積として,最大問題にすべきだ,というコメン トあり。提案を受け入れた現行の(4)が出来た。>
部会長「第3問の立方体の問題は,翻訳カを見る狙いがあるから,立方体の図は必要ないですか。」
新入生(5)「賛成。翻訳する力を見るのですから,図を入れてやったら,ヒントにもなると思いますが。」
古参兵(10)「その力を見るのが狙いなんだから,図を入れるのは反対です。図を自分の手で書いて,座標抽を 考え,頂点を座標で表現するのが解法の定型ですよ。もちろん,このままベクトルで計算しても出てきますがね。 それでは時間がかかり過ぎる。その違いをわからせるのが教育です。」
<OB委員から,立方体の図を入れよという提案あり。>
部会長「第4問は,ちょっと難かしいですね。特にz1の計算は受験生も不慣れなんじゃないですね」
古参兵(9)「いや,この程度の計算はできてはしいです。」
<OB委員会から,z1の形は分母をはずした(2)の形で出題すべきといい。(4)は,z1の形を決定する代りに sinβの計算だけでよい,というコメントあり。>
古参兵(10)「z1の計算は,どうしても出したい。これくらいのレベルは何とか確保したい。しかし,(4)は OB委員会の提案に従ってもよい。」
古参兵(9)「そうすると,z1を求めるという本来の設問がなくなるわけで,品格が落ちることが残念ですネ」
新入生(12)「実に,いい問題なのに。時間が足りないという理由なら,時間を延ばすことを考えてほしい!」
部会長「まあ,この辺で,妥協して下さいヨ(笑)」(了)
 以上述べたことは,センターの公式見解ではなく,作問委員の一個人の体験談であり,誤解と偏見に充ちたも のかも知れない。センターに問い合せなどして御迷惑をおかけしないようにくれぐれもお頼いしたい。御質問は 東京出版編集部気付・佐藤恒堆まで。(さとうつねお,千葉大学名誉教授,理学博士)