2005年台風14号による宮崎県高千穂町の災害
(2005/9/23 暫定第1版)
九州大学大学院 農学研究院 森林保全学研究室
1.高千穂町上村の崩壊(写真1〜5)
上村では、山腹崩壊(N32°45′35″,
E131°20′6″程度)から土砂流出が発生し、人家直前まで達したが、建設中の治山堰堤で停止した。崩壊は標高約870〜880mの南東向き山腹斜面で発生しており、土砂はおおよそ450m程度南東に流下して人家直上流に到達したと見られる。家屋は沢の出口近くに位置していた。流出土砂は途中の峰部で左右2つの流れに分かれたが、西側の沢では既設堰堤で停止し、東側の沢のものも施工中の2基の堰堤で停止したため人的損害は生じなかった。
崩壊の長さは約140m、下方の幅約35mで、上流側の施工中堰堤堆積部の勾配は約27度、下流堰堤では21度であった。
等価摩擦係数は0.667程度と大きい値となる。2003年の大宰府花崗岩斜面災害の0.217〜0.357よりかなり大きく、相対的な流動距離は短かったと思われる。
周辺の地質は古生代秩父系の粘板岩・凝灰岩などと見られ、破砕されて脆い。
崩壊地の植生は主としてスギの人工林となっている。
写真1 上村の山腹崩壊 写真2 崩壊の遠景 写真3 人家直上流の沢の出口
写真4 施工中の堰堤と流出土砂堆積 写真5 さらにその上流の土砂堆積状況
2. 高千穂町土呂久の災害
この地区では2箇所で崩壊が発生し、計5名が被災している。
1)
東側の災害(写真6〜7)
ここは、人家の裏山東向き斜面が崩壊したもので、崩壊長さ33m、最大幅13m、滑落崖付近の幅は約9m、平均勾配は23度(下方で27度、滑落崖周辺は14度)、崩壊深さは側方崖で1.9m程度、滑落崖で約3.95mであった。
等価摩擦係数は約0.606と到達距離は長くはないが、人家裏斜面崩壊なので犠牲者が出た。
周辺の地質は古生代秩父系の粘板岩・凝灰岩などと見られる。
崩壊周辺はスギの人工林。下方は農地。
写真6 崩壊を下方より見る 写真7 上方より見た崩壊と被災家屋
2)
西側の災害(写真8〜11)
この地点では、人家裏山中腹の西向きの牧草地斜面が崩壊し流下、人家を直撃した。
崩壊部の長さは約81m、幅は約32m〜35m、深さは側方で2.5m、最急勾配は約35度、滑落崖高さ4.3m程度であった。
土砂の流下距離は約186mで、流下部勾配は上方で28度、下方で13度〜15度、人家付近の流下幅は約19mであった。
等価摩擦係数は約0.538で、2003年の大宰府・花崗岩地帯の崩壊などに比較すると大きい。
植生は、崩壊地が牧草地で、流下部や崩壊周辺はスギの人工林である。
表層地質は阿蘇火砕流堆積物と崖錐堆積物である。
写真8 崩壊地全景 写真9 流下部と崩壊
写真10 破壊された被災家屋跡 写真11 激しい衝撃を受けた被災家屋の一部
3. 高千穂町その他の崩壊(写真12〜13)
写真12 岩戸地区岩戸川左岸の森林斜面と農地崩壊 写真13 上村地区の農地崩壊(この他にも多数あり)
岩戸川左岸の崩壊は斜め長さ約47m、幅約27m、勾配は42度のもので、等価摩擦係数を計算すると約0.90となる。
この他に、長さ25mほどの崩壊が、竹の上地区のスギ林斜面で生じていた。
以上です。